山荒の鳴く夜
新撰組の組長時代に、城山 賢神(しろやま けんじん)という無手の格闘術を使う風変わりな維新志士と一戦交えた事がある。

平助の記憶の限りでは、あの男が一番人間離れした鋭い動きの持ち主だったが、シイはその城山 賢神を遥かに超える動きの持ち主だ。

毛針を回避して反撃に転じようとした時には、既にその場にはいない。

つまりこちらの身の安全を確保してからの反撃では間に合わぬという事だ。

ならばどうするか。

「……」

『鶺鴒の尾』をやめ、平助は足を止める。

腰を低く落とし、愛刀を引きつけるように構え、切っ先はシイに向ける。

「…刺突か?」

前傾姿勢のまま構えていたシイが呟く。

新撰組副長・土方 歳三考案、『平刺突(ひらつき)』。

万が一刺突を回避されたとしても、すぐに横薙ぎの攻撃に変換できる。

新撰組の隊士が好んで使う技だった。

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