山荒の鳴く夜
平助も確かに見た。

椿が踏み込んだのは一度だけ。

だがその瞬間に、彼女は放っていたのだ。

超一流の剣客である平助でさえ影を追うのが精一杯という速さの、二回目の刺突を。

「二段突き…」

ゾクリと。

肌が粟立つ感覚を覚える。

目の前の娘が、急激に『あの男』と重なって見え始めるのを感じた。

そう、今はもうこの世にいない、幕末きっての天才剣士の姿と…。

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