山荒の鳴く夜
色々と訊きたい事はある。

だが平助の口から、何も言葉はなかった。

沖田もまた何も語らない。

語ってどうなる。

ほんの僅かな再会だ。

命ある事を喜び合うには時間が短すぎるし、思い出話をするには互い血に塗れ過ぎた。

穏やかに語らうような関係ではない。

顔を合わせるのは、いつだって動乱の中。

互いに背中を預け合うだけの仲。

新撰組とは、そんな集団ではなかったか。

何も語る事なく、ただ最期に笑顔を浮かべて。

沖田 総司は逝く。

ただそこに『天才』という異名と、儚い淡雪のような笑みだけを遺して…。

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