山荒の鳴く夜
「……!」

椿が我に返った時、平助は既に自らの手当てを終えていた。

「おぅ高遠、戻ってきたか」

「……」

平助の頬にある涙の跡を、彼女は見逃さなかった。

だが敢えて何も言わない。

「『彼』はもう逝ったのだな…」

「ああ」

呟く椿に背を向けて、平助は頷く。

「俺も行く。シイがくたばった以上、もう用事はないんでな」

彼の新撰組の終わりが油小路なら、新しい人生の始まりもまた油小路。

何か因縁めいたものを感じさせた。

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