午睡は香を纏いて
「あの、あたしがサラだっていうなら、あたしも術が使えたりするの、かな?」


今まで自分に不思議な力があるなんて感じたこともないので、否定されることを承知で聞いてみた。
しかしあたしの予想に反して、カインは頷いた。


「程度は分からないけど。今だって、言語の理解ができてるだろ?」

「あ、うん。すごいね、これ。
あれ、でもレジィもこれ使えてたようだけど、神官なの?」

「いや、あいつはそれほどの力はない。微々たるものだけど、使うのが巫女姫の対珠となれば、話は別だな」

「ふう、ん」

「それはカサネを助ける大事なものだから、体から離すな。それと、できるだけ隠しておくように」

「隠すの? でも、フーダさんやセルファさんには、もう見られちゃったよ」

「それはもう仕方ないな。でも、もうこれ以上は見られないように気をつけて」


気付けば、カインと気負わずに会話が出来ていた。
何も分からないあたしに、ぶっきらぼうな口調で、でも丁寧に説明してくれる。
この人、フーダさんの言う通り、いい人なんだ。


「あ、じゃあ、カインも対珠を持ってるの?」

勝手なイメージだけど、カインの対珠ってすごく綺麗なんじゃないかな。
見せてもらいたいな、と思って聞くと、カインは口角を少しだけ上げた。


「あるけど、見せない」


笑顔で拒否、ということでいいんでしょうか。
言葉の終わりに、ふふ、と愉快そうな笑みをつけて、カインは木杯を傾けた。


「他に、知りたいことは?」
 

対珠については拒否したけど、あたしとの会話は続けてもいいらしい。
空になった杯をコトリと置いて、あたしに聞いた。


「え、ああ、うーん。あ、そうだ、さっきレジィが言ってた、奪われた邑って、何?」



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