午睡は香を纏いて
失礼しますと声がして、カインの置いた杯に手が伸びた。
給仕をしてくれている、あたしと年の近そうな男の子が、
大きな水差しから琥珀色の液体を注いだ。

お酒、だろうか。
果実のような甘い香りが鼻先をくすぐった。
ちなみにあたしの前には水が置かれている。
お酒は飲めないと、会話のついでにレジィに言ったことがあったけど、
それが反映されているらしい。

満たされた木杯を手渡され、カインは小さな声で礼を言った。
男の子が去るのを見送ってから、あたしに顔を向けた。


「レジェスから聞いてない? あいつ、命珠のことは説明したんだよな?」

「うん。人の命を糧に、不老不死の力を手に入れられるってやつだよね。サラの体に溶けた、ってことまでは、聞いた」

「命珠を創るときにも、命を要することは聞いた? 創るには一度に沢山の命がいる。
リレトはその為に、オルガの邑を潰したんだ。
神武団に、第一から第三騎士団まで駆り出して、邑人を殺した。
今ここにいる奴らは邑人の生き残りや、神殿に家族を殺された者たちばかりなんだ」

「邑を、潰した……」


思い返せば、レジィが命珠の話をしていたとき、辛そうに顔を歪めていた。あれは殺された仲間たちを想ってのことだったんだ。


「レジェスの養父、オルガの先の長もその時に命を奪われた。
長の妻も、惨殺されたそうだ。フーダは夫と息子を二人。セルファはオルガの民ではなかったけど、神武団に妹を。まあ、皆大切な誰かを殺されてる」


辺りを見渡した。ここにいる人が皆、あのリレトによって誰かを失っている。
レジィも、にこやかなフーダさんも、セルファさんまでも。
さっきの男の子も、もしかしたら。




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