午睡は香を纏いて
本を開いて、そこに目を落としたカインは、もうこちらに用はない、といった様子。
ちらりとも視線を寄越してくれない。


「じゃあ、カイン先生から許可ももらったし、行こう」

「あ、あの。行こうって、どこに?」

「気分転換に行こう。本ばっか見てたら沈んじまうだろ。
邑から少し行ったところに小さい湖があるんだ。そこまで行こうぜ」

「で、でも……」

「カサネ、目の下真っ黒なんだぞ。今日は何も考えずにぼけっとした方がいいって」


そんなに酷い顔をしてるのだろうか。
フーダたちは別に大げさじゃなかったのかな。


「そんなに、酷い?」

「ああ。てな訳で、行くぞ」


深く頷いたレジィがあたしの手を取った。
酷い見た目になっているようだし、今日はレジィに甘えようか。

それなら、行く前にカインに謝っておこう。
って、ついでのように言うのも違うか、と一人おろおろしていると、ぐい、と手を引かれた。


「あ、ちょ。レジィ」

「ほらほら、行くぞー」


引きずられるようにしながらカインのほうを見る。
振り返らない背中があった。

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