午睡は香を纏いて
「二人とも、乗れ」


馬車の中からカインが顔を覗かせた。


「は、はい」


セルファの手を借りて、馬車に乗った。カインと向かい合わせに座り、横にはセルファが腰掛ける。
珍しさに、内部をまじまじと見渡した。
初めて乗ったけど、案外広いんだ。天井も高いし、椅子もゆったりしてて柔らかい。
窓は重厚なビロードのカーテンが縁取っており、今は外の景色を見せていた。

と、ガタンと揺れたかと思うと、馬車がゆるりと動き出した。二頭の騎馬が馬車を挟むように横につく。
荒れた町並みを、絢爛な一団が進行する。
人々が半分怯えたような顔をこちらに向けてるのがちらりと見えた。


「これからヘヴェナ家に向かう。道行には一刻ほどかかるかな」


カインの言葉に、車内に視線を戻した。


「一刻(約二時間)もかかるの? あの辺りだよね、行くのって」


窓の向こうに微かに見える王城。その少し下辺りを指差した。
昨日のセルファの説明だと、城のすぐ下に貴族の居住区があるってことだったもんね。


「ああ、今日は貴族郭にある屋敷に行くんじゃないんだ。ブランカ郊外にある、別宅の方だ」

「べったく?」

「そう。サラはそちらで幼少を過ごしたらしいからな。
そちらの方がいいだろうと判断した。
まあ、幼少の記憶だから、大した意味はないかもしれないけど」


確か、サラは三つか四つの頃には神殿入りしたんだったよね。自分の三歳の頃の記憶ですらあやふやなのに、サラの子供の頃なんて尚更思い出せる気がしない。


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