午睡は香を纏いて
「それと、今日は父親のヘヴェナ公爵は不在だ。半月ほど前から遠方の領地に見回りに出ているそうで、戻ってこられない、と」

「急な話だったもんねー。じゃあ誰がいるのさ?」

「母親の公爵夫人と、妹のフィーナ姫と聞いてる。が、兄のヘラルド子爵も、もしかしたらいるかもしれないな」

「お兄さんがいるの?」


思わず大きな声を上げてしまった。妹がいるというのは以前フーダから聞いていたけど、他にも兄弟がいたなんて。


「ああ、確かサラの一つ上で、二十四歳。ヘヴェナ家の跡取りだ」

「オレ、見かけたことあるよ。結構な色男でさ、浮名は数知れずって感じだったな。実際、何人もの姫を泣かせてたよ」

「へ、え」


美しいと名高かったというサラの兄ならば、当然と言う気もする。さぞかし綺麗な顔立ちなのだろう。

「まあ、兄であれ母親であれ、きっかけになる人物が多いのは都合がいい。
さて、カサネは、今日はゼユーダの巫女姫だという設定なんだけど、それはセルファに聞いたな?」


カインがあたしに視線を向けた。



「う、うん。聞いた。巫女姫に昇格したばかりの、だよね。
でもあたし、ゼユーダなんて国のこと何も知らないし、しかも巫女姫だなんて大丈夫かな……」


セルファのお蔭で恰好だけはそれなりになったけど、あたしは巫女としての知識すら、全くと言っていいほどないのだ。
ボロがでて、偽物だってバレるようなことになったらどうしよう。
向こうに警戒心を持たせてしまったら、心を近しくなんてできるはずもない。

失敗したらどうしよう。
不安がため息になって零れた。

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