午睡は香を纏いて
「そんなに心配しなくていい。向こうだって、異国の巫女姫についての知識なんて、たいして持ち合わせていない。
カサネが意識するのは、狼狽えず、堂々と微笑んでいることくらいだな。もし理解できない話題を振られても、動揺せずに笑ってろ」

「へ? それって、何かあったら笑ってごまかせってこと?」


それって、打つ手だてなしってことじゃないの? すぐばれちゃいそうなんだけど。
しかし、カインは首を横に振り、


「俺が横についている。全て補佐するから、カサネはただ笑っていればいいってことだ。万に一つも、向こうに疑いの余地など与えない」


とあっさりと言いのけた。その自信に溢れる口調に、安心感を覚える。


「そ、っか。横にカインがいてくれるのか。それなら……平気、かも」


へへ、と笑った。不思議と、カインがいれば大丈夫だって気がしてくる。
と、カインがぷいと顔を逸らした。


「……とは言え、邑にいる時みたいに鶏と喧嘩なんて始められたら、俺でも取り繕えないがな。それなりに巫女姫っぽくしてくれ」

「む……、分かってるよ! それくらい」


ぷう、と膨れて顔を背けた。
どこまでも嫌味を忘れない人なんだから、もう。
でも、軽口を叩いてくれて、ほんの少し嬉しいと思ったあたしがいる。いつまでもぎこちないままでいたくない。
早くカインに謝ろう、と再び誓った。


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