午睡は香を纏いて
「少女は神殿内、リレトの元に連れて行かれたそうだ。今は神殿の奥深く幽閉されている、という話だ」

「…………っ!」


やっぱり莉亜はリレトの手に落ちたんだ。血の気が引いたあたしに、カインが首を横に振った。


「偽物の可能性が残っていることを忘れるな。それに、俺は偽物だろうと判断した」

「……え?」

「その少女は、大通りのど真ん中、多くの人間の見ている中で派手に引っ立てられたんだと。リレトが連れて来たのだとしたら、神武団がわざわざ捕獲劇なんてしなくていいはずなのに、おかしいよな?
その上、秘密ごとの多い神殿内部のことなのに、少女の行方はあっさりと調べがついた。
情報をさらけ出しすぎなんだ。俺なら、せっかく連れてきた駒ならそんな風にあからさまに使わない。ここぞという時にしか出さない」


ふふ、とセルファが鼻で笑った。


「誘ってるんだろうね。カサネが飛び込んでくるのを」


二人の顔を交互に見つめた。


「ほ、ほんと? 莉亜じゃない、の?」

「違うと考えていていいだろう」


しっかりと頷いて見せるカインにほっと胸を撫で下す。
よかった……。莉亜は危険に晒されていないんだ。


「いやー、安心したね。カサネ」


セルファが笑って言った。それに何度も頷いて答える。


「本当によかった。ありがとう、カイン」

「別に何もしてない」

「でも、ありがとう」


ほっとしたせいか、涙が滲む。深々と頭を下げた。


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