午睡は香を纏いて
しかし、あたしに変化は一向に訪れなかった。
夫人と話をしても、子爵と笑い合っても、これというものが何も感じられないのだ。

せっかくここまで来たのに、と焦る反面、どれだけ一緒にいても無理だろうと思う。
何しろ、二人ともサラについてほとんど何も知らないのだ。
どころか、サラに対して少しも思い入れがない。

彼らの話は、遠く離れた顔見知りの話をしているかのように、中身がない。


「乳母に任せた後は、神殿に入りましたでしょう?
神殿は簡単に面会できませんし、会うこともなくて」


夫人は形のいい唇をほんの少し歪めて笑った。
貴族と言うものは、自分の手で子供を育てない。
サラを育てたのは、雇い入れた乳母だったのだそうだ。夫人は、直接サラに会ったのは数回なのだと言い足した。


「サラは薬医殿にいたときがありましてね。その時はタイラが会いに行っていたのですよ。患者として行けば、堂々と面会できるでしょう?」


サラと過ごした記憶がない、と言い切った子爵はふふ、と悪戯っぽく笑った。

神殿入りした娘や息子に会うには、そうした裏技があるのだそうだ。
他にも、供物を持って行って特定の巫女や神官に手渡したいと申し出るなど、規則の抜け道はあるらしい。
しかし、そんな裏技があると知っていて、夫人も子爵もサラに会いに行ったことはない、と言う。父親の公爵も同様だそうだ。

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