午睡は香を纏いて
「あ……。ヘルベナ大神殿の、紋章……?」


思わず知らず呟いて、は、とする。
そうだ、ヘルベナ大神殿の紋章と同じデザインなのだ。

カインが神殿の構造を説明するときに用いていた書類。
それらには必ず、一風かわった印が押してあった。しょっちゅう目にするものだから、何なのかカインに聞いたことがあって、それはパヴェヌが使いとして使役する蛇をモチーフにしたものなのだと教えてもらった。

マユリさんは、あたしの視線の先の模様に指を添えた。


「そう。大神殿の紋章。これは、神の教えに背いた罪人に押される、焼鏝(やきごて)の痕よ」

「罪、人……?」

「神に反する者、聖印を以て魂を浄化する。魂喰いの指輪ができる前までは、『これ』が処罰の一つだったの」


つ、と痕をなぞる指先。
魂喰いの指輪の前、ということは少なくとも三年以上前の痕なのだろうが、尚も傷痕は痛々しかった。


「あ、あの、罪人、って?」


訊いてはいけないことなのかもしれない、と思いながらも疑問を口にしていた。しかしマユリさんは眉一つ寄せず、淡々と答えてくれた。


「先読みの力というのは人が持つべきものではない。パヴェヌが人間に認めていない力なの。それを有している者は、廃神キャスリーの使いだと言われているの」

「はいしんキャスリー、って何ですか?」


初めて聞く名前だった。
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