午睡は香を纏いて
「シルヴァ、それは説明になっていないわ。
先読みの言葉というのは、巫力を用いないと発せられない。言いかえれば、巫力がないと先読みはできないの。だから巫力のないあの人たちは先読みではないし、裁きの対象にもならない」


シルヴァさんを制して、マユリさんが丁寧に教えてくれた。


「先読みという力は実在しない、というのがこの世での常識。神学の中でも、廃神の項目でほんの少し扱われている程度のものなのよ。
けれど、私の家は、れっきとした先読みの家系だった。この力は女子にのみ現れるのだけれど、母も、祖母もこの力を持って生まれてきた。そして、私たち姉妹も」


子供に教えるような柔らかな口調が、ぴんと張りつめるのを感じた。
姉妹? マユリさんには姉か妹がいるのか。その人はここにはいないのかな。

「先読みは許されない秘すべき力。だからこそ、人に口外してはいけない、一族だけの秘密だった。
一族に生まれた者は、どれだけ巫力を発露してもそれをひた隠しにして、神殿入りを避けたわ。あそこに入れば、どんなことから力が露見するかわからない」


マユリさんは傷跡に再び指を這わせた。


「祖父母も、両親も、先祖は皆とても気を付けていた。それなのに、私は愚かにも一族以外の者に話してしまった。その力を見せてしまった。
そのせいで、家族を失ったわ。この痕は、私が自分でつけたの。
愚かだった私の罪の証。

そして、私の一族を滅ぼしたリレトへの、復讐を誓う証として」



琥珀の瞳に、ちろりと炎が見えた。
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