午睡は香を纏いて
「だから、これを渡した。これさえあれば、貴方を助けることができるかもしれないと思ったから」
差し出しされた手の平には、半球の対珠が二つ載っていた。
「え……? ふたつ?」
「そう。これはね、二つで一つ。ほら、こうしたら、完全な球体になる」
マユリさんが両手でそれを摘み、平面を重ね合わせると、二つの半球は吸い寄せられるようにくっついた。接合面は瞬時に分からなくなり、一つの完全な球体に姿を変えた。
驚いたあたしに、くすりと笑って見せたマユリさんの顔は、少し楽しそうだった。
「すごいでしょう? この対珠は特殊でね、互いを呼び合うのよ」
「呼び合う?」
「そう。離れていたら、相手を呼ぶの。だから、貴方を転送できたのよ。呼び合う対珠の力を利用して」
対珠は互いを引き合う性質があり、離れ離れになっていても片方さえ持っていれば、もう片方を呼び寄せることができる。逆に、離れた珠の元に行きたいと願えば、転送のように跳べるのらしい。
あたしを転送したのも、反応し合う対珠があったからこそできたのだそうだ。
「でも、私の力じゃ貴方一人しか引っ張れなかった。彼も一緒に転送できたのは、貴方の力があったからよ」
「あたしですか!?」
「そう。だからそんなに疲労しきっているのよ。まだ巫力が戻ったばかりで扱いにも慣れてないのに、無理したから」
あたしが、セルファを……?
確かに全身が砂袋になったように重たくきついけれど、ただそれだけで、巫力が戻ったなんて分からない。
そういえば、引き車の中でセルファも同じようなこと言っていた。力が戻ったから言葉が理解できるようになったんだ、って。
対珠無しでも会話に支障がなくなったのは助かるけど、かといって劇的な変化を感じるというわけではないんだけどな。
でも、あたしがセルファを助けられたというのなら、嬉しい。守られてばかりではなかったんだ。
「あたし、本当に巫力とかあるんですか?」
「あるわよ。そして、その使い方を私が教えるわ。大丈夫、魂に刻まれている貴方なら、きっと使いこなせるようになる。命珠は、貴方が壊すのよ」
「命珠を、あたしが壊せるんですか?」
マユリさんの言葉に、心臓が鳴った。ブランカに来た目的は、命珠を壊せる可能性を求めること。
それを、あたしができるというのだろうか。
「ええ、できる」
マユリさんは力強く頷いた。瞳に、激しい色がちらついた。
「貴方がいれば、リレトを殺せる」
「…………!」
また、だ。
マユリさんは、リレトに対して激しい憎しみを抱いている。さっき、一族を滅ぼされたと言っていたけど。それはどうして? 何があったの?
「リレトと、何があったんですか?」
頬の引き攣れに、マユリさんは手を添えた。形の綺麗な爪で、カリカリと傷跡を掻く。
「……昔話をしてもいい?」
「聞きたいです」
言うと、彼女は長くなるけど、と呟いてシルヴァさんに顔を向けた。
「オレは別に構わん。寝とく」
「寝ないで。シルヴァだって知ってることでしょ。一緒に話して」
「めんどくせえな」
しかし、起きていてくれるらしい。シルヴァさんはポケットから煙管を取り出して、それにケイルの葉を詰めた。火打ち石のようなもので手際よく火をつける。
ぷう、と紫煙を美味しそうに吐いたのを見て、マユリさんはあたしに視線を戻した。
「体が辛くなったら切り上げるから、言ってね」
「大丈夫です」
横になっていれば大丈夫だ。ルドゥイのお蔭もあるのか、辛さが多少薄らいでいた。
マユリさんは、ゆっくりと話を始めた――。
差し出しされた手の平には、半球の対珠が二つ載っていた。
「え……? ふたつ?」
「そう。これはね、二つで一つ。ほら、こうしたら、完全な球体になる」
マユリさんが両手でそれを摘み、平面を重ね合わせると、二つの半球は吸い寄せられるようにくっついた。接合面は瞬時に分からなくなり、一つの完全な球体に姿を変えた。
驚いたあたしに、くすりと笑って見せたマユリさんの顔は、少し楽しそうだった。
「すごいでしょう? この対珠は特殊でね、互いを呼び合うのよ」
「呼び合う?」
「そう。離れていたら、相手を呼ぶの。だから、貴方を転送できたのよ。呼び合う対珠の力を利用して」
対珠は互いを引き合う性質があり、離れ離れになっていても片方さえ持っていれば、もう片方を呼び寄せることができる。逆に、離れた珠の元に行きたいと願えば、転送のように跳べるのらしい。
あたしを転送したのも、反応し合う対珠があったからこそできたのだそうだ。
「でも、私の力じゃ貴方一人しか引っ張れなかった。彼も一緒に転送できたのは、貴方の力があったからよ」
「あたしですか!?」
「そう。だからそんなに疲労しきっているのよ。まだ巫力が戻ったばかりで扱いにも慣れてないのに、無理したから」
あたしが、セルファを……?
確かに全身が砂袋になったように重たくきついけれど、ただそれだけで、巫力が戻ったなんて分からない。
そういえば、引き車の中でセルファも同じようなこと言っていた。力が戻ったから言葉が理解できるようになったんだ、って。
対珠無しでも会話に支障がなくなったのは助かるけど、かといって劇的な変化を感じるというわけではないんだけどな。
でも、あたしがセルファを助けられたというのなら、嬉しい。守られてばかりではなかったんだ。
「あたし、本当に巫力とかあるんですか?」
「あるわよ。そして、その使い方を私が教えるわ。大丈夫、魂に刻まれている貴方なら、きっと使いこなせるようになる。命珠は、貴方が壊すのよ」
「命珠を、あたしが壊せるんですか?」
マユリさんの言葉に、心臓が鳴った。ブランカに来た目的は、命珠を壊せる可能性を求めること。
それを、あたしができるというのだろうか。
「ええ、できる」
マユリさんは力強く頷いた。瞳に、激しい色がちらついた。
「貴方がいれば、リレトを殺せる」
「…………!」
また、だ。
マユリさんは、リレトに対して激しい憎しみを抱いている。さっき、一族を滅ぼされたと言っていたけど。それはどうして? 何があったの?
「リレトと、何があったんですか?」
頬の引き攣れに、マユリさんは手を添えた。形の綺麗な爪で、カリカリと傷跡を掻く。
「……昔話をしてもいい?」
「聞きたいです」
言うと、彼女は長くなるけど、と呟いてシルヴァさんに顔を向けた。
「オレは別に構わん。寝とく」
「寝ないで。シルヴァだって知ってることでしょ。一緒に話して」
「めんどくせえな」
しかし、起きていてくれるらしい。シルヴァさんはポケットから煙管を取り出して、それにケイルの葉を詰めた。火打ち石のようなもので手際よく火をつける。
ぷう、と紫煙を美味しそうに吐いたのを見て、マユリさんはあたしに視線を戻した。
「体が辛くなったら切り上げるから、言ってね」
「大丈夫です」
横になっていれば大丈夫だ。ルドゥイのお蔭もあるのか、辛さが多少薄らいでいた。
マユリさんは、ゆっくりと話を始めた――。