午睡は香を纏いて
どうやらすごく危ない状況になっているらしい。
会話から判断するに、ムスクという人が殺されているようだし。


「ど、どうなってんの、これ?」


目覚めてからそんなに時間は経っていない。
きちんと理解できているのは、別世界に連れてこられた、それくらい。
落ち着いて自分の置かれた状況を知ることもできないなんて。


でも、とにかくここから逃げないといけないようだ。


「失礼致します!」


駆け込むようにして、ライラが入ってきた。


「これにお着替え下さいませ」


差し出されたのは、地味な茶色の服だった。


「レジェス様は出発のお仕度をされています。お早く」

「は、はいっ」


恥ずかしい、なんて考える余裕もなく、あたしはライラの前で豪快に着ていた制服を脱いだ。
ブレザーもスカートも放って、代わりにライラが持ってきた服に袖を通す。
白いシャツに、茶色のパンツ。毛皮のベストに革靴。
最後にベルトを締めてから自分の体を見下ろして、首を傾げた。

これ、男性用じゃないの?


「ねえ、ライ、ラ?」


訊ねようとして、目を見張った。
ライラが下着姿になって、あたしの脱ぎ捨てた制服を着ようとしていたのだ。


「ど、どうしたの!?」

「時間稼ぎです」


ブラウスのボタンを留め、濃紺のブレザーに腕を通して、ライラはにっこり笑った。


「幸い、カサネ様は以前とお姿が変わっていらっしゃいます。追っ手はカサネ様と私の区別がつかないでしょう。
この世界と違う衣服を着ている者がいたら、カサネ様だと勘違いするかもしれません」

「それって……、それって危ないじゃない!」


命を失った人もいるこの時に、そんなことをしていたらライラが危険なんじゃないの。
危ないから、だからここから離れるとレジィは言って、
そのために今支度をしているんでしょ?



< 37 / 324 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop