午睡は香を纏いて
「ライラも一緒に行けばいいじゃない。そんな危険なことしなくても」

「私は剣を使えません」


スカートを履きながら言った。


「共に行っても、カサネ様をお守りする術を持ちません。ですが、ここにカサネ様としていることで、私はカサネ様をお助けできるかもしれません。
ライラはここに残ります」


強い意志の宿る瞳で真っ直ぐに見つめられ、言葉に詰まった。


「カサネ様には生きて頂かないといけません。私たちの、希望なんです」

「ライラ……」 


どうして? そう聞きかけた言葉を飲み込んだ。
サラという人は、命を賭けてまで助けなくてはいけない、重要な人だったんだ。
その人があたしだと、どうしても思えないけど、ライラはそう信じている。


「私なら大丈夫です。父がおります。あの父が、敵兵にひけを取るとお思いですか?」

「それは……」


あんなに大きくて逞しくても、万が一があるかもしれない。
だって、殺された人のことだって、レジィは『大丈夫だ』って言ってたのに。
けれどそんなこと、この状況で言えない。
言いよどんだあたしに、ライラは笑ってみせた。


「父だけではございません。ここには他にも数名、オルガの者がおります。ご安心下さいませ」

「で、でも……」

「支度は出来たか?」


レジィが入ってきた。さっきとは違い、革で作られた胸当てのようなものを身につけている。腕にも、脛にも、革製の覆いをつけていた。
それに、背には一振りの剣。艶のない銀鼠色の鞘に納まったそれは、布を巻いて背負っていたものと同じ大きさだった。

物々しいいでたちのレジィはあたしの服装をざっと見て取って、不敵に笑う。


「上出来。これならいいとこ、俺の従者だな。巫女姫だと簡単に分からないだろ」

「レジィ! あの、ライラが」

 
もしかして、レジィならライラのしようとしていることを止めてくれるかもしれない。
そう思って言ったのに、レジィはライラの姿に黙って頷いた。



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