午睡は香を纏いて
『何かいないか、周囲を確認すること』


最初に休憩をとったのは、動物しか来ないような小さな水場だった。
木々が数本立っているその裾を、小川がちょろちょろと流れていた。

あたしは初めての乗馬体験に腰砕けになっていて、馬から降りた途端にその場にへたり込んだ。


痛い。キツイ。


土埃まみれだし、乗ってるだけで体力も気力も減った気がする。

はああ、と脱力していると、大切なことを教えておく、と先の言葉をレジィが言ったのだった。


『平原は隠れる場所が限られているから、分かりやすいんだけどな。
まず、誰かが隠れていそうな場所を見つけて、そこに目を凝らす。
動くもの、光るものがあったら、危ない。
これから休憩するたびに、一番にそれをすること』


身を守る為だから。その言葉に従って、周囲をじい、と見渡した。
何もない、と思う。風にそよぐ草しか、ない。そう言うと、レジィはにこりと笑って。


『ないと分かったら、大丈夫。ほら、喉渇いてないか?』

『渇いた!』


緊張のあまり、喉はカラカラだった。
並んで川の水を舐めている馬の横へ行き、光を反射している水面に両手を差し入れた。
ひんやりとした水が指の間をさらさらと流れていく。
その冷たさを十分堪能してから、掬い上げて喉を潤した。

甘い水に、ため息がこぼれる。


『はー、生き返った』

『そりゃあよかった』


レジィも横に並んで、同じように水を掬い、飲んだ。
その場はすぐに出発し、それからも、所々点在している水場で休憩を繰り返してきた。
あたしはそれら全てで、きちんと周囲を確認して、それはちゃんと習慣づいたようだ。



< 44 / 324 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop