午睡は香を纏いて
「ほら、ついた」


そこには小さな湖があった。
水鳥が羽を休めている、透き通った水が湛えられた湖。
小さな白い花が、脇に咲いていた。


「わ、綺麗」

「ここは人があまり通らない道筋にあるからな。よ、と。ほら」


先に降りたレジィが、あたしの体に手を伸ばした。その手に支えられるようにして馬から降りた。

うう、これ、照れてしまうんだよね。
馬上って思っていたよりも高くて、それが怖くて降りるのにもたもたしていたら、レジィが助けてくれたのが始まりだった。

それから乗り降りするたびにレジィの手を借りているわけだけど、
両脇を支えられてふわりと体を持ち上げられるのって、どうにも恥ずかしくてならない。

あの、あたしの全体重、かかってるんですよね?
重い、とか思われてたらどうしよう。
一応平均体重以下ではあるんだけど。
なんて、馬に乗ってる最中はもっと密着してる訳だけどさ。
ぴったりくっついた背中とか、髪にかかるレジィの息使いとか、意識したらキリがないくらいだ。

でも、馬上だとその他のことに意識を逸らしやすいし、何よりそこを気にしだしたら何も出来ない。だからこれも意識するな、あたし。


「ありがと、う」

「おう」


レジィはあたしの赤面なんて気にもしてないようだから、それは大いに助かるところではある。
さっさと馬を湖に誘導する背中に、緊張を解くため息をついた。


「昼飯にして、夕刻頃にここを出よう」

「あ、はーい」

「ごめんな。本当はゆっくり寝させてやりたいんだけどさ」

「ううん、いいよ。大丈夫だから、あたし」


あたしなんかよりレジィの方が疲れているだろうに。
あたしは乗っているだけだけど、レジィはずっと手綱を握っているんだから。

レジィたちのそばに行き、埃で汚れた顔を洗った。
冷たい水が心地いい。ぶるぶるっと首を振って水を払ってから、はあ、と息を吐いた。
つい、と見上げた空が青い。
少し寝不足の瞳に眩しいくらいだ。



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