午睡は香を纏いて
「何こっち見てんの?」

「暗いよねー。ヤな目つきだし」


前回は返事をしなかったら、シカトだと口々に喚かれた。
だから今日はきちんと対応してみたというのに、それはないでしょ。
結局、何をしてもムカつくんだろうとは思うけど。


「……ねえ。ランニングシューズ、返してくれない?」

「はぁ? あんたの靴なんて知らないんですけどー」

「勝手にこっちのせいにすんなっつーの」

「……ふうん、そう」


言っても無駄だろうに、口にしてしまったあたしは学習能力がないのかもしれない。
ランニングシューズは諦めて、再びローファーを拭く作業に戻った。


「学校、辞めたらいいのに。こんな女」

「ホント。顔見ると気分悪くなるし」


頭上から降ってくる雑言。
早く帰ればいいのに、と思う。

かわいい顔作って媚売ってる男のとこにでも行けば? なんて言えばもうひとしきり絡まれるだろうから、言わないけど。


「気分悪い。帰ろー」

「どっか寄って帰んない? 気晴らしにさ」


返事をしなくなったあたしに飽きたらしい。
舌打ちを残して集団は去って行った。
嵐がようやく過ぎた。
シミがついたローファーを履いて、あたしはのろのろと校舎を後にした。
ゆっくり行かないと、先に行った彼女たちと会わないとも限らない。

これ以上関わりあいたくなかった。



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