午睡は香を纏いて
けれど、視界が暗く遮られることによって、あたしの眼裏にはさっきの光景がまざまざと再生されていた。
あの人の仲間は去って行ったようだけど、遺体は連れて行ってあげているのだろうか。
詳しく把握していないけど、鉄仮面の人だけじゃなく、他にも数人は亡くなっているはずだ。彼らの遺体も。

いや、でもあの状況では連れて行けなかっただろうか。
彼らにもきっと大切な人や家族がいるはずで、その人たちは彼らがこんな所で命を落としたなんて知らないはず。
その死を知って、骸すら帰ってこないことを、どれだけ悲しむだろう。
いきなりの死を、どう受け入れるだろう。


「死に囚われすぎたら駄目だ、カサネ」


レジィには、あたしの考えていることがわかったのだろうか。
ふいに、子供に言い聞かせるような口調で言われた。


「剣を持つというのは、命のやり取りを了承したということ。刃を人に向けるときは、相手のみならず己の死までも覚悟することだ。
奴らは剣を持ち、俺たちに向けた。俺たちは死んでやるわけにはいかない。だからこれは、仕方ないことなんだ」


レジィの言っていることは、分かる。
あのとき助けが来なければ、あたしたちは死んでいた。

鉄仮面の人には去る意思はなかったし、あのままだとあたしたちどころか助けに来た人たちにまで攻撃をしてきただろう。

そうなれば、もっと多くの死人がでたかもしれない。


「死は尊い。それがいくら自分の身を狙った者であっても、死を迎えた者を尊ぶのはいいことだと、俺は思う。
だけど、それが過剰になったらいけない。命の取り合いの上の死は、摂理だ」


この世界は、死がこんなにも近いのだろうか。
あたしの十六年間の人生では、『死』はどこか遠くに感じられるものだった。
それは著名人の死であったり、ドラマや漫画の創作の上での死であったり、目の当たりにするものではなかったからだろうか。


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