午睡は香を纏いて
死と直面することのなかったあたしの十六年間は、平穏、といえたのだ。

だけど、ここは、違う。

命を奪う人がいる。
その人たちから身を守らなくてはいけないし、その結果として相手の命が潰えたとしても、それは仕方がないのだと、自分の中で消化しなくてはいけない。

そうしなくてはきっと、ここでは生きられない。
命を狙われているのは、他でもない自分自身なのだから。


「わかった」


どう答えていいか分からなくて、でもそれを自分なりに理解したことを伝える為に、短く答えた。


「よし。ほら、もういいぞ」


目の前の覆いが無くなった。
と、正面から数十人の馬群が向かってきているのが見えた。
中央にいる、白馬に乗った人の姿が真っ先に目に入る。

レジィと同じ金髪、だろうか。陽を浴びてきらきらと輝いている。その顔は、左目を覆い隠すように眼帯のようなものがある。

なんとなく、さっきの声の主があの人だと確信した。

にしても、その後ろの人数、多いんだけど……。
土煙を巻き上げて迫ってくる一群に、失礼ながらのけぞってしまう。
助けてもらったとはいえ、地響きまでしてるし迫力ありすぎなんですけど。


「レジェス!」

「助かった、カイン」


眼帯の男の人がいち早く駆けてきて、あたしたちの前で馬を止めた。
金髪だと思ったのは、どうやら茶髪のようだ。
少し長めの髪を後ろで一つに緩く縛っている。前髪も長く、焦茶色の眼帯の半分を覆い隠していた。
そのせいで、顔がよくわからない。

服装はと言えば、体つきがわかるような、ぴたりとした黒の上下。
それに、右肩からふわりと鳶色の長方形の布を掛け、それをベルトのようなもので留めている。
年は、レジィとあまり変わらないように見えるから、二十をいくつか越してるくらいだろうか。

この人が、レジィから何度も名前を聞いた、カインさん?


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