午睡は香を纏いて
「出してない、って、どうして分かるの?」

「あいつがこの状況を楽しんでいるから、だよ」


レジィの背中から声がしたかと思えば、人が入ってくるところだった。


「二人とも起きているようだったから、勝手に失礼した」


火の灯った燭台を手にして近づいてきたのは、カインさんだった。
テント内がそのお陰でほわりと明るくなる。
急に光を見たせいか、目を瞬かせてしまったあたしに小さく頭を下げてから、カインさんはレジィの近くに座した。
燭台をコトリと置く。


「あ、いえ。その、楽しんでいるって、どういうことですか?」 

「あいつは自分の命を狙っている俺たちのことを、玩具のように思っている。
楽しい玩具としばらく遊ぼうと思っているんだから、簡単に壊すなんて真似はしない」


並んで座る二人とあたしは、燭台を挟んで向かい合う形になった。
ゆらゆら揺れる灯りを見つめながら、カインさんは言った。


「玩具、ですか……」


リレトの冷たい笑みを思い出した。あの人ならば、そういうことを考えるのかもしれない。人の命を簡単に潰せると言ったあの人なら。
胸に広がる不快感に、唇を噛んだ。


「なので、ここで野営することを心配しなくてもいい。まあ、多少不便ではあるだろうけど、そこは我慢してもらいたい」

「いい加減嫌になったよな。ごめんな。もう少し頑張ってくれな?」


申し訳なさそうに頭を下げるレジィに慌てた。


「え、あたし平気だよ? 今も十分寝られたし、いいってば」


馬上でも寝られたんだから、あたしは多分どこでだって寝られる。
それにここはテントとは言え屋内だし、しかも毛布を被って横になって眠れる。
贅沢すぎるじゃん。
ついでに追われる心配もないのなら、文句なんてあるはずがない。

とそこまで考えて、気付く。
もしかして最低条件が低すぎだろうか、あたし。

でも、とにかく平気なことには変わりないので、大丈夫だよ、と眉を下げているレジィに何回も言ってみせた。




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