午睡は香を纏いて
その時、カインさんが前髪の隙間からあたしをじ、と見ているのに気がついた。
観察するかのように、頭から、座っている足元まで視線が流れる。


「あ、あの、カインさん?」

「外見にサラとの共通点は、ないな」


ぽつん、と小さく言葉を落とした。


「ああ、そうだな。けど、味は一緒だったぜ?」

「また舐めたのか、レジェスは」


呟きを聞き取っていたレジィに呆れたように返して、カインさんは前髪を掻きあげた。それからあたしに手を伸ばした。


「あ。え?」

「少し触れる。君の魂を探るだけだから、痛くない」


ひんやりとした指先が、頬に触れた。
三指が、頬から顎を、ゆっくりと辿る。
その間も、カインさんの目は真っ直ぐにあたしを見ていた。

露わになった茶色の瞳は、綺麗なアーモンド形をしていた。
長い睫毛に縁取られた瞳が、灯りに照らされて揺らめいている。
肌は陶器のように白く艶やかで、鼻梁はなだらかに高い。 
左目を覆う眼帯に隠された顔はそれでも端整なことが見て取れて、その容姿に一瞬心を奪われた。

次に、引き込まれていたことに気付いて、慌てて目線を逸らした。
きっと間抜けな顔で見惚れていたに違いない。確実に見られたよね。


「逸らすな」


顎に当たる指先に、やわりと力が入る。
穏やかだけれど、有無を言わせない指示に、あたしは再びこちらを見る瞳に向かった。
どれくらいの時間、そうしていたのだろう。冷たかった指先と、あたしの頬の温度が同じになったころ、カインさんが目を閉じた。

ふ、と指が離れる。そして、


「サラに間違いない。命珠が……ある」


静かに断言した。
リレトがあたしをサラと呼んだ時に、もう疑う余地はないと思っていた。
あたしは、サラだったことがあるのだ。その記憶がなくとも。
カインさんの言葉を受け入れている自分がいた。


「ひっぺがせるか?」


カインさんの顔を覗きこむようにしてレジィが聞いた。
期待を込めた声に、首を横に振る。


「道具も何もないから、存在の確認ぐらいしかできない。その話はオルガに戻ってからだな。
まあ、リレトが君たちに会いに来た時点で、命珠の在処は確定したようなものだったし」




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