午睡は香を纏いて
「あの、恥ずかしいんで止めてくれませんか」

「え、何が」


レジィの手が緩んだので、顔を見上げた。
あたしはただ、レジィの傷具合を確認しようとしていただけだ。
特に変わったことはしていないはずだけど。

しかしそこには激しく動揺している様子のレジィがいた。
顔が赤いようにも見えるけど、燭台の灯りがそう見せているだけ?

はて、と首を傾げていると、レジィが手の平で自分の顔を覆った。
そのまま大きなため息をついて、指の隙間からあたしを見下ろした。


「レジィ?」

「だから。女の子は、男の体を不用意に触るんじゃありません」

「は、あ……?」


言っている意味を理解するのに、数秒かかった。


「うああああああっ、ご、ごめんなさい!」


べたべたと触って撫でくりまわしてしまった。理由はさておき、傍目にはまるきりの痴女のようじゃないか。

レジィの動揺の原因が自分にあったことに、こちらが真っ赤になってしまう。


「いや、俺は別にいいっちゃいいんだけど。いややっぱよくない、のか?」

「あ、あの、怪我がないかとか気になって、その、ごめんなさい! すみません!」


は、とすれば、あたしはいつの間にかレジィににじり寄っていて、ものすごく近くにいた。
広い胸元にすっぽり収まっているような位置関係。


「うわ! 本当にごめんなさいっ」


ずさささ、と後ずさった。
馬上では密着していたけど、それはそうしなくてはいけなかったから。
必然性があったから、どうにか気にしないでいられたのだ。
それが、こんなところで、しかも自分からくっついていくなんて、レジィじゃなくても注意すると思う。

何でそんなことにも気付けなかったんだろう。



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