午睡は香を纏いて
「あー、いや、そんなに慌てて逃げられるのもなー」


まだ上気している顔で、ぼそりと呟くレジィ。
その声音に傷ついた色を感じて、焦って過剰に反応してしまったのかもしれないと思った。
だけど、あのままくっついているわけにもいかないし。


「とりあえず、あの、これから気をつけます」

「あー。ハイ。そうして下さい」

「そろそろお邪魔してもいいですかね、長」


不機嫌そうな声がふいにして、レジィが「あ」と口を開けた。


「このままじゃ湯が冷めちまうよ。だいたい、いつまで女の子にそんな格好させとく気だい」

「フーダ。悪い、すっかり忘れてた」

「そうでしょうとも。ようやくの再会ですからね。お気持ちは分かりますよ。しかしね、早くすっきりさせてやりたいと思う優しさが、欲しいもんだねえ」

「悪かったって。カサネ、この人はフーダ。これからお前の世話をしてくれる」


立ち上がって、レジィは一人の女の人の背中を押しやるようにして連れてきた。
髪をきっちりと結い上げた、恰幅のいい年配の女性。
つやつやとした顔は満面の笑みを浮かべていて、あたしを見て取ると、駆け寄ってきた。


「フーダと申します。カサネ様、と仰るんでしたね。私はお世話役として参りました。何でも言いつけて下さいましね。ささ、まずは湯浴みを」


言うなり、あたしの手を引く。
後ずさりしたままの体勢だったあたしは、彼女に引かれるままに立ち上がった。



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