午睡は香を纏いて
「カサネ様は、おいくつですか?」


粗布でごしごしと背中を擦りだしたフーダさんが聞いた。
何の石鹸を使っているんだろう。ハーブのような香りが鼻をくすぐった。


「十六です。だから、あの、そんな話し方は止めてください。
様、とかもいりませんから」


フーダさんは、あたしの両親よりも年上に見える。
そんな人から敬語を使われるなんて、居心地が悪い。


「じゃあ……、そうさせてもらおうかねえ。しかし、今度はまた愛らしい姿に変わったもんだねえ」

「え? サラを、知ってるんですか?」

「ああ。サラのお世話役も、私がさせてもらってたからね」

「あの、サラって、どんな人だったんですか?」


サラについて、多くのことを知りたい。
こうなった以上、きちんと知らなくてはいけないと思う。
フーダさんは懐かしそうに目を細めた。


「いい子だったよ。私のことをお母さんと呼んでくれてね。私には息子しかいなかったから、サラがそりゃあかわいくてね。
だからもっと甘えてもらいたかったけど、あの子はそれが下手だった。

三つ、いや、四つだったかね。
そのくらいの頃に、実の両親と離れて神殿に仕えるようになったんだって。
神殿は厳しいところで、甘えなんて許されないらしいんだ。だからあの子は人に甘えたことがなかったんじゃないかと思うよ。

知らないんじゃ、甘えるなんてできないよねえ」

「そんなに幼いころから……。神殿に仕えると、親とは全く会えないんですか?」

「ああ。神殿に入ると、世俗と切り離されるんだ。いくら実の親であろうとも容易に面会できないし、親が死んでも、神殿の許しがない限り出ることは許されない。サラは、両親の顔をよく覚えていないと言っていたよ」


思い出したのは、両親の顔だった。
家を出て行って以来消息を知らない父と、あたしを振り返らない母。子供を放棄した両親。
でも、それでも二人とも、あたしが子供の頃は優しかった。甘えさせてくれた。
その先にどんな未来があるとしても、あの時感じた幸せを、あたしは知っている。



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