午睡は香を纏いて
「あたし……そういった作業をしたことないだけなんです。
そんな手より、働き者の手の方が綺麗に決まってます」


ぽつんと呟くと、フーダさんがふふ、と笑った。


「おやおや、やっぱりサラと同じようなこと言うんだねえ」

「同じ?」

「ああ。『働き者の手なんだから、自慢すべきよ』ってね。
頑張った証が綺麗じゃないはずがない、とも言っていたかね」


当たり前のようにそう言い放つ女性の姿が、おぼろげに見えた気がした。
ほんの少し、サラが近くなった気がした。
でもまだ遠い霞の向こうだ。


「おや、首飾りは外さなくてよかったのかい?」

「あ、これは、このままで」


首に下げたままの珠を見てとって、フーダさんが聞いた。
これを取ると非常に困る。
赤い珠を摘んで、へへ、と笑って見せると、フーダさんは首を傾げた。


「カイン様の持っているのと、よく似てるねえ」

「え?」

「その鎖も。カイン様も同じような鎖をして、首から下げてたよ」


そういえば、レジィはこれをカインの珠って言っていたような。
もしかしたら、もしかしなくても、返さないといけないんじゃないだろうか。
持ってるだけで言葉が理解できるなんて、ものすごく貴重なものだろうし。

でも言葉が理解できないのは大問題だし、このまま貸してもらいたい。
頼めば了承してくれるだろうか。

とそこまで考えて、むう、と唸った。
カインのとっつきにくい表情を思い出したのだ。
『無理』とか万が一言われたら、それ以上踏み込めそうにない。
そこを何とか、なんて言える気がしない。言い出しにくい雰囲気を醸していた。

でも、今までこれのお陰で助かったのだから、お礼も言わないといけないし。




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