午睡は香を纏いて
「フーダさん、カインって、どんな人ですか?」

「カイン様かい? うーん、難しいねえ」


フーダさんの手が止まって、考え込むように視線を彷徨わせた。


「部屋に籠もってお勉強なさってることが多いから、ねえ。
でも、いいお方には間違いないよ。麦を改良して、オルガの土地に合った種を作ってくださったし、病ともなりゃ、よく効くお薬を調合してくださる。

ああそうだ。
サリイの旦那が水虫に罹ったことがあるんだけどね。
カイン様にお薬をお願いにあがったら、えらく臭い塗り薬を頂いたんだよ。
それがもう臭いのなんの。一緒の部屋にいられないくらいだったんだ。
その晩、サリイは旦那を家畜小屋に追い出して、豚と寝てもらったんだよ。
翌朝は薬の臭いは消えたんだけど、豚臭くなっちまってねえ。

それがあとで聞いたら、わざと一番臭い薬をだしたんだ、って。水虫なんかで手間かけさせた礼だってさ」


思い出したのか、大きな口を開けて笑うフーダさんは、肩を揺らしながら続けた。


「長とはよく一緒にいるけど、しょっちゅう口喧嘩してるね。
でも、カイン様はなにしろ弁の立つお人だからねえ。長はいっつも言い負かされて膨れてるよ。
仲がいいことには変わりないんだろうけどね」


いまいち把握できない。いい人だけど、気難しい、ってところだろうか。


「ええと、じゃあサラとカインは、どんな感じでしたか?」

「ふむ。長以上に口喧嘩ばかりしてたよ。いい勝負だったけど、カイン様が少し上手だろうね。最後はいつも、サラがぶりぶり怒ってた。

でも、カイン様はサラにはお優しかったよ。喧嘩の後は必ず、ご機嫌伺いに来るんだ。と言っても、怒りの収まらないサラとまた喧嘩になるんだけどねえ」


懐かしそうに呟く。その様子は微笑ましいものだったんだろうと思う。
そうか、やっぱりサラと仲がよかったのか。
じゃあ、あたしに対して失望しているかも、と思ったのは間違いじゃないのでは。



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