午睡は香を纏いて
   * * *

袖を通すのが躊躇われるほどの、瀟洒(しょうしゃ)な服が用意されていた。
さらさらと柔らかな生地は向こうが透けてみえるくらいに薄く、
灯りに照らすと真珠のような淡い光沢を放っている。
こんな生地、初めて見る。きっと高級なものに違いない。
その布を惜しげもなく幾重にも重ねて形作っているのは、シンプルなデザインのロングドレスだった。
生地だけで十分存在感があるのだから、凝った造りにしなくていいのだろう。

しかし。
話に聞くサラの容姿であれば、抜群の着こなしをみせるんだろうけど、残念、着るのはどうやらこのあたしなのだ。


「どうしたんだい?」


ドレスを持って固まっているあたしを見て、フーダさんが不思議そうに言った。


「あの、これ、あたしには勿体無いというか、ドレスが可哀相というか」

「え? ああ、サラのことを考えて用意したからねえ。
カサネには少し大人っぽいかね。とりあえず着てごらん」

「う……はい」


肌を撫でるような生地は心地いい。だけど、そわそわする。ドレスなんて着たことがなかったんだから。
ドレスの背中は、細い紐で編み上げるようになっていた。
それをきゅ、と締めてから、フーダさんはあたしの前に立った。



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