午睡は香を纏いて
それから。
陶器に入ったクリームのようなものをぺたぺたと顔に塗られ。粉をはたかれ。

あたしは至近距離でメイクを施していくセルファさんにどぎまぎしながら、なすがままになっていた。

この世界には、どうやら美形さんが多いようだ。
レジィといいカインといい、会う人殆どが、各種様々な綺麗どころじゃないか。

レジィと共にいたから、多少耐性がついてると思っていたけど、そうでもなかった。
綺麗なものはやっぱり綺麗で、迫力があるものだ。


「ほら、上向いて」


セルファさんの指先が肌をなぞる。
男の人にこんなことをされる日がくるとは。
こんな顔を晒していいのだろうか。
恥ずかしさに心の中でもんどりうってしまう。
自分より綺麗な男の人に化粧してもらうなんて、精神修行の一貫なんじゃないかって気がしてきた。


「さて、これでおしまい」


固まって動けないあたしにお構いなしにメイクを進め、最後に指先で唇に色を落として、セルファさんは笑った。
青い花芯が細くなって、紫の花が揺れたように見えた。


「あ、ありがとうございます」


初めて笑顔を向けられたことに収まりかけていた心臓の動機が再び強くなる。
美しい人の笑顔というのは、無駄に衝撃がある。



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