午睡は香を纏いて
   * * *

テント群の端に、人が集まっていた。
三十、いや四十人は優にいる。
大きな焚き火を囲むようにして座っていた人たちが、あたしとフーダさんに気付いてばらばらと立ち上がった。
こちらに駆け寄ってきそうな気配に足が竦む。
好意的な様子なのだけど、炎に照らされた顔は妙に迫力を増していて、怖い。

思わず顔が引きつった。
笑みを向けられているのに失礼だということは分かるけど、笑顔がうまく作れない。
こんな風にたくさんの男の人の視線を集めた経験など一度もなかったので、許してほしい。


「カサネが怖がるから、座ってろっつったろ」


呆れたようなレジィの声に、皆が反応する。
あたしも反応したうちの一人で、レジィの声にほっとしてしまった。


「ほら。あそこに長がいるから」


フーダさんが指差した先に、レジィとカインの姿があった。
レジィと目が合うと、ひらひらと手を振ってくれた。


「こっち来いよ、カサネ」

「あ、うん」


小走りでレジィの側に行った。レジィはあたしの姿をまじまじと見て、にか、と笑う。


「それ、セルファの作った服だろ? よく似合ってる。すげえ可愛い」

「え? あ、ありがと」


てらいもなく言われた言葉に赤面する。過剰な誉め言葉だと分かっていても、嬉しい。
さっきの分かりにくい誉め言葉よりも真っ直ぐな分、照れるけど。

レジィはカインとの間に空間を空けてくれて、そこに座るように促した。
カインの隣? と一瞬たじろいだ。
でも、みんなずっと待っていてくれたようだし、これ以上時間をとらせるのも悪い。
とりあえず言われるままに座ると、レジィが輪の面々を見渡した。


「じゃあ、改めて。彼女がカサネだ。サラの転生後であることは、カインが確認している。
サラの魂が戻ってきたことにより再び、リレトに死を与える為に行動できる。
穢れた命の糧にされた同胞たちの為に、奪われた邑を取り返す為に、皆の力を貸してもらいたい」


言い終えたレジィに賛同する声が、至るところから上がる。中には目頭を押さえている人の姿もある。





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