午睡は香を纏いて
奪われた邑、とは何だろう?
オルガってところとは別に邑があるのだろうか。
聞きたくて、レジィの方を向こうとして、感じた。
皆の視線があたしを見ている。
視線の熱気に焼き殺されそうだ。

じゃなくて、どうも皆、レジィの後にあたしの言葉を待っている様子じゃないか。
そろーっと見回すと、そこには期待に満ちた顔つきばかり。
ここは何か言わないといけないのかな。いけない雰囲気のような気がするんだけど。


「よろしくとか適当に」


ぼそりとカインの声がした。
ああ、やっぱり勘違いじゃないんだ。


「え、ええと……、カサネといいます。仲良く、してください」

 
ぺこ、と頭を下げて、すぐに後悔した。これじゃ転校生の挨拶じゃん。
もっと気の利いたこと言わなくちゃいけなかったんじゃないの。

だけど、皆拍手を返してくれた。
「よろしく」なんて声も聞こえる。あんな挨拶でも受け入れてもらえたみたいだ。
ほっとして胸を撫で下ろした。


「じゃあ食事にしよう。皆、飲みすぎんなよ」


レジィの言葉をきっかけに、座の空気が変わった。
宴会の始まり、といったところなのだろう。
どこで支度をしていたのか、次々と料理が運ばれてくる。
皆の前には木杯が置かれていて、それにはお酒が注がれていたらしい。
あっという間に赤ら顔の人が増えた。

あたしの前には山盛りの料理や果物が置かれ、皆がにこにこと懐かしそうに声をかけてくる。

多分サラを知っている人たちで、再会を喜んでいるのだろうけど、記憶のないあたしには初対面で、初めて聞く話なのだ。
ど、どうしよう、とレジィに助けを求めれば、レジィもまた沢山の人に囲まれていて、あたしに気付く余裕はなさそうだ。




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