午睡は香を纏いて
「カサネ様、これはお好きだったはずですよね」

「あれからフェイが子を産みました。名付けて頂くのを待っております」

 
入れ替わりやって来る人たちに曖昧に笑みを返していると、皆とは違う落ち着いた声がした。


「カサネと話したいから、少しいいか?」

 
声の主は、あたしの横で静かに木杯を傾けていたカインだった。
カインも偉い人なんだろうか。
今まであたしの周りにいた人が、それに従って下がっていった。


「大丈夫?」


解放されたことに一息つくと、カインが聞いた。


「ありがとう。ええと、話したいことって?」

「え? ああ、そうだな。何がいい?」


もしかして、さっきのは助け舟だったんだろうか。
木杯の中身をちろりと舐める横顔を窺った。
前髪に隠されている右目は見えない。


「え、ええと……。あ! あの、これ、これからも貸してもらってて、いいかな?」

 
今がチャンス、とばかりに胸元の珠を取り出した。


「それは元々サラのものだから、カサネが持つのが正しい」


ついとあたしの手の中を見やって言う。


「サラのもの……? これ、すごく便利だけど、魔法とかそういうものなの?」

「魔法、なんて言い方はしないな。『術』と呼ぶんだ。
術は生来『巫力』を持つ者のみが使える。力を持つ者は半強制的に神殿へと入れられて、男なら神官、女なら巫女となる。
 
その珠、『対珠(ついじゅ)』と呼ぶんだけど、それは術を発動させるときに必須。神殿に入ってすぐ、己で創る大切なものだ」

「創れるの? これを?」

「ああ。水宝珠(すいほうじゅ)という液体を、力でこねて形作る。大きさ・色は個人差があるかな。サラのは結構綺麗なほうだ。下手な奴は球体にもならないから」


見下ろせば、赤い光を抱えたそれは完全な球体。
やっぱりすごく大事なものなんだ。







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