【番外編更新中】鬱気味お嬢様の甘い諸事情。
ため息をつこうとした瞬間、前の席の女の子がくるんと後ろを向き、私を見つめる。
ウェーブのかかった茶色い痛みがちの髪。
ぶわっと顔にかかるように放たれた甘ったるい安い香水の香り。
「ねぇ、ねぇ、藍澤さんっ?」
咽そうになるのをこらえながら、精一杯の笑みを作る。
「何かしら?」
作り笑いは得意。昔からお父様に仕込まれてきたから。
”嫌なときでも笑いなさい”、と。
「藍澤さんって、カッコいい執事がいるんでしょう? いいなぁっ♪」
人懐っこい笑顔。
私にはできない、自然に溢れた笑顔。
どうしたら、そんな風に笑えるの?
一瞬にして、自分の今作っている”笑顔”が偽者だってバレてしまうような気がして怖くなった。
返す言葉すら見つからない。
「やっぱり、お金持ちは違うねぇ♪ もう格が違うって感じ!!」
お金持ち?
格が違う??