【番外編更新中】鬱気味お嬢様の甘い諸事情。
はぁ、と安堵のため息が漏れる。
「零、荷物持って…なんだか疲れたわ」
「はい。御鞄を」
朝より重い革のカバンを軽々と持ち上げて抱え込むように持ち、私の歩調に合わせて歩いてくれる。
「学校はどうでした? 珍しく落ち着いておられますが」
いつものような妖艶な笑みとは違い、もっと柔らかいお日様のような笑顔。
こんな風に笑うのね、零も。
今までこんな零みたことない。初めて見た。
ほんのりと頬が熱くなっていくのが分かる。
それを悟られないように、プイッとそっぽを向きながら素っ気無く返すことにする。
「別に。普通よ、普通」
「普通…でございますか」
クスクスと笑う零。
笑う必要なんてあるのかしら。
零は先に持っていた荷物を車の中に静かに速やかに置けば、
「お嬢様、お入りください」
私が入れるよう、当たり前のようにドアを開きエスコートしてくれる。
私は「有難う」と小さく、本当に小さな声で車に乗り込んだ。
いつもと変わらない車内。
家に帰ったときのように気持ちが落ち着く。
静かに動き出した車に揺られながら、バックミラー越しに見える零を見つめてみた。