金星

「そっか」


ゆっくりとタケルの影があたしに近づいてきた。


「ほら、俺の胸貸してやるよ!」


得意げな顔と、ドラマのセリフっぽい言い方。


あれ、これってデジャブ?

前の彼氏にフられた時もタケルに同じこと言われたような……。


こんな時なのに、

ちょっと笑いがこみあげてきた。


「あははは! バッカじゃないの!?」


前と同じように冗談で返しておいた。


「ありがと、タケル。元気出た、よっ!」


よっ、のタイミングで、

あたしはタケルの肩のあたりに軽くジャブを放った。


「いて! おうよ、いつでも話きくから何でも相談しろよ~!」


「ありがとー! タケルも早く彼女作んなよ~!」


タケルに精一杯の笑顔を向けた後、

あたしは教室を後にした。


少し戸惑っているような目で、タケルは笑っていた。
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