金星

その時。


――バタン。


再び玄関の重たい扉が鳴った。


アズミ?


涙をぬぐい、玄関に続いている廊下に俺は飛びだした。


「……なんだ親父か」


久々の親父だった。


珍しく愛人も連れてきておらず、

今日は一人だ。


「お父さんに向かってなんだとは何だよ」


「帰ってくるなら連絡しろよ」


「それよりも、お前。今女の子が泣きながらこっから出てっただろ?」


親父が居間に向かいながらそう言った。


「親父には関係ねーよ」


俺も居間に戻り、ソファーに落ちるように座った。
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