金星
「……ああ、今から会社戻るから資料の準備だけ頼む。では」
親父の電話が終わったようだ。
「というわけで、父さん会社に戻んなきゃならなくなったから。続きはまだ今度な~」
そそくさと、背広とヴィトンのビジネス鞄を手にして、
親父は再び出てしまった。
まさに、嵐のように来て、嵐のように去って行った。
3歳だったら、何となく覚えていることもあるはずだ。
しかし、何にも思い出せない。
しかも頑張って思い出そうとしても、
酒のせいか頭が痛くて無理だった。
グラスの中に残ったシェリー酒を飲みほしてから、
思わず俺は一人で呟いた。
「俺、母さんいた記憶ねーよ」
も、もしかして……
俺に父親らしいこと言いたいだけの親父の嘘か!?