金星
「いらっしゃいませー。申し訳ございません、ただいま満席で……」
客が店内に入るたび、店員の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
そんな中、優奈は泣いていた。
「あのなぁ……俺がお前泣かしてるみたいだろ」
モンブランをフォークで崩しながら、戸惑う俺。
「だってぇ、それにしてもアズミちゃんって子、なんで潤一なんかに本気で惚れちゃったんだろ……」
おい、そこかよ!
と突っ込みたくなったが。
「きっと潤一もアズミちゃんのこと好きになりかけてたんだよ」
「そうなのか?」
「しかも、アズミちゃんそんなに潤一のこと好きだったら、ちょっとキスしたくらいで潤一の前から消えるわけないし。
何で、一番最悪なパターンで終わっちゃったのさぁ」
「まあ、な。俺もよく分かんねーんだよ」
「この不器用モテ男!」
そう言って、優奈はテーブルの上にある紙ナプキンを丸めて俺に投げてきた。