金星

「また、時々帰ってきてもいい?」

「ああ、もちろんだよ」


ご飯を食べてから、服や物が少なくなった自分の部屋に走って戻った。

部屋に入った瞬間、涙があふれだした。


あたしがタケルの話を聞かずに帰ろうとしたら、珍しく怒り口調になった潤一、

それから、もう会えなくなるタケルからされた本気の告白、

タケルのこと好きだったはずなのに優しくしてくれる加奈、


そして、パパとママ――

数週間前、朋宏が家に来て、あたしのパパとママに同棲したい旨を伝えた。

その時は、朋宏の真剣さと、優奈の本当に好きな人なら……とパパとママはすぐに同棲を許してくれた。


これってあたし見捨てられてるのかな? とか思ったけど、違ったんだ。


今日一日で、いろいろな人たちからあたしは守られていることに気がついた。


ふと鏡を見ると、涙で目の周りの化粧が取れたせいか、こめかみの青いあざが浮き出ていた。


「……いったぁ」


これは一昨日、スリッパのまま蹴られた時のあざだ。

手でぐっと押すと、鈍い痛みを感じた。
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