金星
「お前は、どうしてそういう面倒くさい恋愛しかできないんだろうな」
そう言って、俺は優奈の顔を覗き込む。
すると、
「うるさいなー、別に面倒くさくなんてないよ! 全部本気だし」
と優奈は言って、俺から目をそらしながら、血が滲んでいる口を尖らした。
「あー、そうだったな」
こんな姿でも、口調はいつもの優奈だったことに、
少しだけ安心した。
すると、ブー、ブー、と加奈の机の上にある、ピンクの携帯電話が鳴った。
「あ……」
優奈がその音の方向を向く。
ブー、ブー、ブー。
その机全体を振動させている音は、しんとした部屋の中鳴り続ける。
「……そろそろ取らなきゃ」
「優奈!」
加奈が泣きそうな声でそれを止めた。
おそらく彼氏――朋宏からの連絡だろう。