金星
「……」
普通に俺は相槌を打って聞いていたが、
優奈が悲しそうな寂しそうな目になっていたのに気がついて、一瞬、喉がつまった。
「あたしが寂しくて、パパとママと一緒に寝たいと思って、自分の部屋から脱出して、2人の部屋のドアを開けようとしたんだけど」
「……ああ」
「扉越しに、優奈が起きちゃうよ、とか、きっと寝てるし気にしないで、とか2人で言い合ってたのが聞こえたから、
あたしは自分の部屋に戻るしかなかったんだ」
ベッドに頬杖をついて、俺は優奈の顔を見つめていた。
部屋の明かりは間接照明のみだが、
目が慣れてきたせいか、優奈の表情はしっかりと見えた。
「それくらいラブラブな、パパとママみたいな、そんな恋愛がしたいって……あたしはそれだけなんだけどなぁ」
そう言って、上を向きながら、
静かに優奈は涙を流していた。
「あーあ、また、泣いちゃった」
俺がいじわるっぽくそう言うと、
「は? 泣いてないし~」
と言って、ぷいっと優奈は反対側を向いてしまった。
そのまま、優奈は俺の方を向かず、肩を震わせて泣いていた。
自然と、俺の右手は優奈のセミロングの髪を撫でていた。