金星

「潤一って父子家庭だよね。お母さんって?」


「ああ、俺が3歳の頃に離婚したんだよ。で、俺母さんいたことこの前まで忘れてたらしくて」


窓の外の景色は、少しの住宅と、遠くに見える山。

その他は、青い空と、田んぼだけになってしまった。


「え、忘れてた?」


「いろいろあって、俺母さんの記憶無くなってたみたい」


「はい?」


何か、凄いことを言ってるはずなのに、

潤一の表情は全く崩れない。


「まー、いーんだよ。俺も夏休み暇だったし、たまにはこういうのどかな旅行もいーなー」


少しだけ、旅行という言葉に、ドキッとした。


長くてまっすぐな線路が続く東北本線。

入れ替わりで夏休み中の学生たちが、席に座っては駅で降りていった。
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