金星
その家族の方向を見ると、

子どもたちは先に車に乗りこんでいて、

女性――潤一のお母さんは助手席へ、その旦那っぽい男の人が運転席に向かっている。


「潤一は、お母さんのこと大好きだったんでしょ?」


「……」


弱い風が、潤一の髪の毛を揺らしている。

長めの前髪の奥の目は、ゆっくりと下を向く。


「お母さんに会いたかったから今日ここに来たんでしょ?」


あたしは、必死にその目に向かって訴えていた。
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