金星

すると、

「待てよ」

と言って、潤一が軽く立ち上がり、

あたしの右腕をつかんでいた。


「ちょっ、し、始業式……」


と言いかけたところで、あたしは潤一の真剣な目と、

あたしの腕をつかむ潤一の右手が、少し震えていることに気づき、

何も言えなくなってしまった。



開いた窓からは、蒸し暑い風と、

雨の匂いが教室に入り込んできていた。
< 306 / 358 >

この作品をシェア

pagetop