金星

「……」


優奈は奥歯を噛み締めているような表情のまま、

何も言わず、ゆっくりと席に座った。


クラスメイトは皆、体育館に向かったのか、

空っぽの椅子と机の間、教室にいるのは俺と優奈だけになった。


「お前、変じゃね?」


「別に……」


「じゃあ何で泣きそうになってんの?」


よくぶっきらぼうな話し方と優奈に文句を言われるから、

俺は、優奈の腕をつかんだまま、その潤んでいる目に向かって、

なるべく柔らかい口調で話しかけた。

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