金星
すると親父は優しい表情だが、
「俺には守るものがあるから別にいーんだよ」
と子どもっぽくいじけた口調で呟いた。
「あ?」
俺は、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、居間のソファーに向かっていたが、
その親父の言葉に反応し、振り返った。
「1つは会社、もう1つはお前。特にお前はなんてったって母さんとの子どもだからな」
親父は俺を眺めながらそう言った。
「……」
喉が詰まる。
すぐには上手く言葉が出てこなかったため、
冷蔵庫の音だけが家の中に響いていた。