金星
その時、玄関の鍵が開く音が鳴る。


「ただいま」


――親父の声。

おかしいな、今日は金曜だし帰ってくるはずないのに。


二人分の足音がこっちに向かってきた。


ああ、なるほどな。


居間の革張りのソファーに座り、金スマを眺めていた。


「帰ったぞ」

「こんばんは、潤一くん? よね」


親父と、親父よりも一回り若い、綺麗な黒髪の女性が俺に話しかけてきた。


「……はい、こんばんは」


初めて見る顔だ。


新しい愛人だろうか。


「じゃ、俺、ちょっと出かけてくるわ」


「そうか、気を付けろよ」


コーヒーを入れながらそう言った親父に対して、

その愛人さんは心配そうな顔をしながら俺を見送った。


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