金星
「アズミ、酔っ払っちゃった~」


「うそつけ! お前酒強いだろ。ほら送ってくから帰るぞ」


「ぶー。……ってかさっきから誰かにつけられてる気がすんだけど」


知り合いの先輩が働いているダイニングバーを出て、

地下鉄の駅までアズミを送っていくことにした。


夜9時。

仕事帰りのサラリーマンと学校帰りの学生たち。


JRの駅が近くにあるため、乗り換えのためにと

ひっきりなしに地下鉄の駅へと人が吸い込まれていく。


「じゃーな。気をつけて帰れよ」

「えー? 帰んなきゃダメ?」


濃くマスカラが付けられたまつげを

2、3回パチパチと動かしながら、アズミは大きな目で俺を見る。


「大人しく帰ったらまた遊んでやるから」


そう言って、ぶーぶー言っているアズミと別れた。


しかし、あることが頭に引っかかり、

しばらく階段を一段一段下っていくアズミの後姿を眺めていた。
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